今俺達の目の前にいる鬼の首魁……鬼舞辻無惨が、赤黒いものに覆われた両腕を振るい、今にも俺達を殺さんと攻撃を繰り出す。, その攻撃を俺達は決死に躱す。その状況は依然変わらないが、柱である俺達が折れる訳にはいかない!, 今この場で無惨に応戦しているのは、岩柱である悲鳴嶼さん、風柱である不死川、蛇柱である伊黒。そして……水柱である俺、冨岡義勇だ。, 少し前、奴に大量の血を注入された炭治郎は瀕死状態に、恋柱である甘露寺も重傷を負って戦線を離脱せざるを得ない状態に追いやられた。, どれだけ不利な状況に立たされようが、俺達は勝たねばならない。死んでいった隊士達の想いを無駄にしてはならない。だからこそ俺達は決死に抗い、夜明けまでの時間を稼いでいる。, 現在、伊黒の持つ赫く染まった日輪刀。あれには、上弦の壱との戦闘を繰り広げた悲鳴嶼さんと不死川によれば鬼の再生力を大きく衰弱させる力があるのだそうだ。, 「恐らく無惨には、あの赫く染まった刃に心当たりがあるのだろう……。なんとしても伊黒を近づけさせたくはないらしい」, 「なら……俺達にやれるのは、道を切り拓くこと……!ボケッとしてんなよ、冨岡ァ……!」, 無惨の動きの変化からそう分析した悲鳴嶼さん。そうと決まれば、一か八か斬り込むのみ!, 表情からして焦りを感じている無惨は、周囲をチラリと見やる。そして……何故か動きを止めて不敵な笑みを浮かべた……!?, 「フハハハハッ!自らノコノコと現れてくれようとは。手間が省けた!太陽を克服した貴様を吸収してしまえば、もう私に恐れるものなど何もない!!」, 無惨が見つけた「何か」は……俺もよく知る炭治郎の妹であり、鬼にされた少女、禰豆子だった。, 禰豆子に危機が迫ることを知れば、俺の身体は勝手に動き、誰よりも速く彼女の元へ走り出していた。, 俺が禰豆子の元へと駆け出すのに気づいた伊黒。同時に俺を援護しようと鬼舞辻に一太刀叩き込もうとしたが、その攻撃を喰らって阻止されてしまう。, 悲鳴嶼さんにも下がるよう促された以上、手助けは見込めない。不死川もまた、風の呼吸の型を次々と繰り出して奴を妨害している。, この状況下で動けるのは俺だけだ!!炭治郎も居ない今、禰豆子を守れるのは……ここには俺1人しかいない!, 呼吸が止まりそうになる程に俺は疾走する。だが、止まる時間などない……!なんとしても……!, 残りわずかの距離で俺は思い切り地面を踏み切った。そして、禰豆子に手が届くと共に……, 颯爽と禰豆子に向けて腕を振るう無惨。禰豆子を捕らえる算段だろうが、そうはいくものか……!, 今やれる限りの呼吸をして、酸素を取り入れると共に少しでも止血を行う。実の所、腕の感覚もあまりない。足も動くのか分からない。そうなれば……。, __恐らくこれが、正真正銘最期の力……!済まない、禰豆子。約束は……守れそうにない……。だが、一目お前の顔が見られて良かった__, 幼い俺を庇って死んでしまった蔦子姉さん、俺の親友であり尊敬していた錆兎、錆兎と俺と共に鍛錬の日々を共にした姉弟子の真菰、俺"達"の師である鱗滝さん、俺に錆兎との思い出を……水柱としての誇りを思い出させてくれた炭治郎、彼と同じく優しい鬼の少女の禰豆子……。俺にとって大切な人達との記憶が頭の中を駆け巡る。, ようやく俺は胡蝶に抱いていた想いを察した。そうだな、死後にお前と出会えたのなら……来世があるのなら……再びお前と出会い、今度こそは必ず伝えよう。, それにしても、彼女を失ってから気づくとは、俺はなんと愚かな男なのだろうか。いや、それを考えるよりも今は目の前の敵に集中せねば。, 俺は目を閉じ、神経を研ぎ澄ます。そして……感覚がないはずの腕で、ひ(・)た(・)す(・)ら(・)に(・)強(・)く(・)、(・)日(・)輪(・)刀(・)を(・)握(・)り(・)し(・)め(・)た(・)。, そう俺の大切な人々に請い、目を開いたその時……全(・)て(・)が(・)透(・)け(・)て(・)見(・)え(・)た(・)。, そして次の瞬間、俺は"赫く染まった刃"で淀みない連撃を繰り出し、目前まで迫っていた無惨の腕を斬り裂いていた。, (最期の力である以上、長くは保たない……!少しでも傷をつけろッ!!隙を与えるな!), 意図を察知した伊黒に促され、距離を取ろうと後退する奴に対し玖ノ型・水流飛沫で逆に距離を詰め……, 「腹立たしい……腹立たしいッ!!!忌まわしき"あの呼吸"を使っていた竈門炭治郎ならまだしも、水の呼吸の剣士にここまで追い詰められるなど!!!あってたまるものかァァァァ!!!!!」, 激昂した無惨が、無差別に超広範囲に向けて腕を振り払い始める。しかも、その速度は今までのものを遥かに逸脱している……!, 「奴の動きを止めねば、街に大きく被害が出る!無惨め……やってくれるな……!!それ以上に、近づけん!」, その攻撃は、不死川達にまで及んでいるらしい。俺は問題なく見切って受け流しているが、このままでは時間の問題だろう……。, 最大の速度で拾壱ノ型を繰り出し、伸びる奴の腕全てを斬り刻んで文字通り周囲を凪いだ。, 無事に奴の動きを止めた俺だったが、拾壱ノ型を繰り出した後、息苦しさを覚える。……そろそろ限界らしい。, 恐らく単に頸を落とすのでは駄目だ。今、奴の身体を視れる俺にやれることをやろう。ならば、やることは一つ。, 「来るな……!来るなァァァァァァァァ!!!!!人間如きに殺されてたまるかッ!!ましてや鬼殺しの異常者共にィィィッ!!!」, 駆ける俺に対して、無惨は腕を振り払いながら、俺の身体を引き寄せる例の攻撃を繰り出す。しかし、全て視えている今の俺には吸引する真空波が巻き起こる場所も分かる!その攻撃の仕組みも!, 故にそれらを躱すことが出来た俺は、迫りくる奴の腕を回転によって威力を増した斬撃で斬り裂きながら、奴との距離をみるみるうちに詰めていく。, 結果として。とうとう俺は無惨の懐に潜り込み、最大威力の斬撃を淀みなく……限界以上の速度で叩き込んだ。, 俺の繰り出した斬撃。それは、奴の7つの心臓と、5つの脳。それらを尽く抉り斬りながら、頸を一刀両断した。, __視界が……ぼやける……。ここまでのようだ……。こっちに来ているのは……不死川か……。, 息を荒くし、ぼやける視界の中で、俺は、不死川がこちらに向かってくるのを何とか捉えた。, 「ふざけるな……ふざけるなァァァァァ!!!!!水の呼吸の剣士に頸を落とされたなど、信じるものか!まだ終わってなど……!」, そして側を見れば、頸が落ちないように腕で支えながらなんとか再生しようと足掻く無惨がいる。しかし。, 抵抗虚しく、伊黒の赫い刃で腕を斬り落とされてその頸も地面に落下。それと共にみるみる無惨の身体が塵となり消えていく……。, そうか、俺は……やり遂げたのか……。これで俺もようやく、柱の皆と同じ場所に立てたのだろうか……?, 「よくやったな。後のことは俺達に任せておけ。憂いもなかろう。精々安心して眠れ……」, 奴が完全に消え去るのを見届けた後、同じ戦場で戦った3人からそれぞれ言葉をかけられる。, なんだか、悲鳴嶼さんに、伊黒まで俺を称賛する発言をしてくれたようで、嬉しくなってきたな……。, __迎えが来たか……。錆兎、俺は……やり遂げたよ……。鬼の始祖を……倒したんだ……。皆もありがとう、力を貸してくれて……。, 聞こえるはずもない2人の声が聞こえ、俺はようやく力を抜いた。声のする方に目を向ければ、確かに2人がいる。, 「カァァァァッ!!伝令!!!伝令!!!水柱、冨岡義勇死亡!共二水柱、冨岡義勇!風柱、不死川実弥!蛇柱、伊黒小芭内!ソシテ岩柱、悲鳴嶼行冥!!鬼舞辻無惨ヲ撃破!!!!!鬼舞辻無惨ヲ撃破!!!!!」, とうとう重い目蓋が完全に閉じる……。俺は伝令を伝える鎹烏の声を最後に、その生涯に幕を閉じたのだった……。. ãæå¾
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